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2017-08-22 20:44:00
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『すべては今日から』児玉清(新潮文庫)

 

児玉清と言えば、パネルクイズ「アタック25」の司会者として有名であろう。(残念ながら胃ガンのために2011年に逝去された。) 我輩の父親と同年齢でもあり、彼のブラウン管からの語りかけが、時にどこか父親からの語りかけではないかと錯覚を引き起こされることがあった。彼が番組内でよく使っていた「慎重かつ大胆に」というクイズアタッカーへのアドバイスは、中高生の学習態度にも反映してもらいたいと感ずるところである。
吾輩は児玉清氏が芸能界きっての読書家であることを本書を通じて知った。〈読書〉への目覚めを語る箇所や翻訳を飛び越えて洋書で読み進める海外ミステリーへのこだわり、さらに運命のもつれから俳優を目指すことになったいきさつなど鮮明な体験談として、読んでいて思わず引き込まれてしまう内容となっている。児玉清氏が、いかにこよなく読書を愛さずにおれなかったかは、たとえ不満がある作品に対してさえも、書評の中でオブラートに包んで読者に伝える暖かな眼差しからひしひしと感じるところである。是非とも読んでいただきたいエッセーである。


2017-08-22 15:28:00

風下の陸地においあげられる屈辱を忍ぶよりは、むしろこの怒濤さかまく無窮の底に滅びたほうがましではないか、例えその岸は安全の地であろうとも!

 

ハーマン・メルウィル『白鯨』


2017-08-22 08:41:00
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Emc² 世界一有名な方程式の「伝記」ディヴィッド・ボダニス (ハヤカワ文庫)

 

私は高校生諸君(あるいは意欲的な中学生)と物理、数学を学ぶ際にいつも不満に感じていることがある。それは生徒諸君が質問で持ち込む物理、数学の教科書の内容を見るときである。その内容が実に底が浅く、申し合わせたように、単なる数式の羅列に終始していることにいつも吾輩は吐き気を催すのだ()。これでは、一層の理系離れを加速させるのは当たり前である。西欧中世科学思想を下地に、ルネサンス期を経て、いわゆる17世紀科学革命に至る豊潤な歴史的背景を持って誕生した近代科学の思想的背景を知らずに、ただ、いたずらに物理公式の暗記をすることで目指そうとするものは何なのだろうか、全く疑問である。

 

 さて、本書の中身であるが、これはアインシュタインを紐解けばどんな初頭のテキストでも必ず書かれることになる公式、すなわちEmc²をめぐる伝記である。すなわち、この方程式を構成するEmc、=、² という記号の相対論誕生以前の歴史的背景とその意味内容を深める内容になっている。中学生が読んでも分かる内容構成を踏まえながらも、歴史的相関関係も理解しやすい内容となった好著と言える。吾輩は、中高生諸君はもとより、彼らを指導すべき立場にある教師が率先して読み進めばならない一冊と考える次第である。

尚、一つあえて不満を申すならば、アインシュタイン登場以前にこの宇宙を支配した()ニュートン力学の公式:Fmaから話を始めてもらいたかったと、贅沢な不満を書き残しておきたい。 


2017-08-21 16:54:00
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『夜間飛行』サン=テグジュペリ(堀口大學訳)(新潮文庫) 

 

新訳が出る中で、平成末期のこの時分に敢えて堀口大學による翻訳でこの作品に触れることを吾輩はお薦めしたいと思う。我輩とこの作品との繋がりは、フランス語初中級文法終了後に、カミュの『ぺスト』と同時期に辞書を片手に読んだことを昨日のように覚えている。
この作品を鑑賞する際の主旋律は、任務遂行の背景にある仕事への情熱や意志力と同時に、それらを柔和に支える老獪な知恵とが巧みに織り成されつつ、展開されるストーリー描写にあるのではないだろうか。
そう言った意味では、企業的不祥事が生じる度に頭を下げることでその場しのぎが出来ると、高をくくる経営トップにこそ、じっくり精読していただきたい作品である。もちろん、これから社会に旅立つ中高生には、是非とも仕事をする意味について、また仕事をする厳しさや責任感の重みについて、本作品を通じて感じてもらいたいと思いまする。


2017-08-18 18:56:00

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