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2020-07-17 22:45:00
今日の書評

 

村上陽一郎『ペスト大流行』(岩波新書)
現在、全世界で新型コロナウィルスという言葉を聞かない日はない現行のパンデミックの終焉がいつ到来するか、全く掴めない状態が今後も少なからず継続すると考えていいだろう。そうした不穏な世界の中で、自分たちが置かれた立場を歴史的に再考するに最適なものが本書であると、わが輩は自信を持ってお勧めしたいと思う。
本著は科学史、科学哲学の大家の最初期の作品である。今読み直してみても全く、古さを感じさせない内容となっており、驚愕する。
結果的にペストによる、ヨーロッパ中世世界の崩壊が、近代科学の大きな遠因の一つとなったことは確かだとしても、その結論に至るまでには、それ程単純な図式で説明できないことを伝えてくれるという意味でも貴重な一冊である。ぜひご賞味あれ。尚、元公共放送出身の池上某氏が書かれた『感染症対人類の世界史』という、かなり怪しい本を読むより、少なからず歴史を経た本書が断然ためになることをお伝えして、締めまする。

2019-06-12 13:41:00
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『日本人の忘れもの全三巻』中西進(ウェッジ文庫)


新年度「令和」命名の中心人物とされる中西進氏の肩肘張らないエッセー本である。
本書は、今から20年ほど前の作品群ということになるが、今読み返しても全く古びない内容であることに驚かされる。
心の豊さとは、一体どういう状態を指す言葉なのか?、物質文化と精神文化とは、今後も絶えず拮抗するものなのか、あるいはどこかに調和点が見いだされるものなのか?、一見衰えたようだが、未だ不誠実な似非学者やポピュリストたちの頭の中を暗躍するグローバリズムという怪物を安楽死させることは可能なのか?、など様々な現代的難題を踏まえつつ、読み進めていく途上、中西氏は遠くは万葉の古代人達から徐々に培い、発酵させてきた日本語の美しさと強かさに我々の視点を注がせ、その多角的な再検討を私どもに促している。
我が輩も、今まで様々な外国語を学習して来たが、外国語習得の支点となる母国語日本語という素晴らしい財産を持ったことに感謝するとともに更なる精進を今後も続けていこうと考えている。


2019-06-03 23:15:00
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『イタリアの旅から』(多田富雄)新潮文庫

本書は、鋭い文学的素養を持った免疫学者による美術紀行である。吾が輩としては、特に南イタリアとエトルリアに関する章(5章~6章、11章)をを読者への推薦としたい。
ゲーテの『イタリア紀行』を引き合いに出すまでもなく、今まで数多くのイタリア紀行が書かれて来た。しかし、本書は切れのある簡略的な文体で一貫して書かれていることが特徴である。
ページを読み進めて行く途上、死への眩惑すら想起させる太陽、太陽の赤味と好対照を形作る紺青の地中海、そして日常生活の中にしっかりと息づいた生と死との交錯などをまざまざと描き出してくれている。
故多田富雄氏の描写能力に感謝申し上げるとともに、アルキメデスや「万物は数なり」と唱えたピュタゴラスの第二の祖国である南イタリアに乾杯!󾭠


2019-03-09 17:49:00
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自分のなかに歴史をよむ』阿部謹也

 

著者は鬼籍に入られたとは言え、未だ大学入試現代文に多用される人物である。その歴史に対する慧眼は、彼の著作を読み返す度に、吾が輩は新たな視点からその感を深めまする。
この本の書評を書きたかった最大の理由は、何と言っても学問に取り組む姿勢について、著者の体験を踏まえつつ示されているからである。

「解るとは、一体いかなることか?」という、誰もが必ず一度は突き当たる、素朴だが難解なるこの問い掛けに対して、「解るとは、それによって自分が変わることである」という、簡潔にして明快な解答を著者自身の恩師からの提言として示されている。ここの部分だけでも読む価値のある書籍と言える。ご賞味あれ。
もちろん、これに便乗するわけではないが、吾が輩が塾生諸君に常に求める「基礎基本」と同時に必ず一度は実行してもらいたいと考える多読や乱読という国語への関心を早い段階から実行し、深化させてもらいたいと言いたいのだ。極論的に言えば、多読乱読という体験を経ない限りは大学に行ってもらいたいと決して思わない。知的未成熟を纏った身で学問を修めることの意味が今一つ掴めないからだ。
V6という歌手グループを知らず、V6エンジンと勘違いしていた吾が輩ではあるが、このことは騙されたと思って信用してもらって構わない。


2019-03-06 20:01:00

純粋に知ること、そのことから感得される喜びもまた「無償の行為」の結果なのである。そしてそこだけに輝かしい人生の開幕があるのである

 

高田瑞穂『現代文読解の根底』


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