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2017-08-28 20:20:00
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『ローマ人の物語』塩野七海(新潮文庫)

 

「作家塩野七海は、歴史学の基礎的技法を下地とした解釈ではなく、作家の想像力をフルに織り交ぜた技法を用いて歴史描写をするので、どことなく違和感を持たざるを得ない」という評価が、我輩の周りでよく耳にした歴史学を専攻する人たちの彼女への評価だった記憶がある。
E・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』はもちろん名著であると同時に、世界史を学習する人の必読書であることに今も変わりはないが、例えば、この歴史的名著がカトリック色の強い書物という理由だけから、その評価を下げるということはあるのだろうか。同様に、真性保守派(?)から見た司馬遼太郎氏の、いわゆる「司馬史観」への批判についてはどうなのだろか。
つまり、誰もが納得する価値中立的な歴史観をねだるのは不可能と割り切って、言わば楽しみながら、何か新たな視点のヒントを与えてくれるものと期待して、我輩は彼女の作品には向き合っているのだが、こうした態度はいかがなものだろうか。
歴史解釈をめぐる問題に関しては、すぐに結論が出ないので、今後も粘り強く取り組んでまいりたいと思いまする。

それにしても、ローマ帝国という息の長いテーマに真正面から取り組む塩野七海氏に心から敬意を評し、今回の推薦の書としたいのであります。