『スペイン断章上下』堀田善衞(集英社文庫)
堀田善衞という作家を今まで誤解していた。その昔、吾輩が嫌いなノーベル文学賞受賞者であるO氏とかなり懇意だった関係から、てっきり左巻きの人物ではないかという印象を強く持ち続けていたのである。しかし、実のところ典型的な日本人作家に見られるような幼児的左翼病(?)に染まることなく、自らの眼球を使って歴史を捉えるという鋭い観察眼が、こと彼の文明批評に遺憾なく発揮されていると再評価したいと思う。そして、その力量を証明する作品がこの『スペイン断章』である。作家自ら、ヨーロッパ文化とイスラム文化の接点を成したこのスペインに、10年もの歳月にわたって踏みとどまり、その地を歩いて、見て、聞いて、肌で感じて、そして書き留めてという、まさに五感をフル活動させながら、完成させたこの作品を今回推薦したい。